農産物直売所は全国に広がっている。
道の駅、JA直売所、都市型有機市、農家個人の販売所。
農林水産省の調査では、農産物直売所の販売額は1兆円を超える規模に達している。
直売所はもはや補助的販路ではない。青果流通の一潮流である。
ただし、直売所は中央卸売市場とは性格が異なる。
中央卸売市場は、法律に基づき設置された制度的な流通経路である。
大量集荷、価格形成、需給調整、都市供給という機能を担う、基幹的かつ制度的な流通機構だ。
国は中央卸売市場を青果流通の中枢として位置づけ、制度的に支えている。
その構造は現在も維持されている。
直売所は、その代替ではないが
拡大している。
なぜか。
食と農を再接続する場所、関係性再構築の場所だからだ。
制度流通としての中央卸売市場の位置づけを確認したうえで、直売所の拡大要因と意味を検証する。
中央卸売市場という制度流通
青果物流通の中心は中央卸売市場である。
卸売市場法に基づき設置され、
透明な価格形成と安定供給を担う制度的インフラだ。
全国の農産物を集荷し、仲卸を通じて小売へと供給する。
この仕組みが日本の食料安定供給を支えてきた。
効率と規模を軸に構築された基幹的流通経路である。
卸売市場は任意の商取引の場ではない。
法律に基づき設置される制度的流通機構である。
卸売市場法はその目的を明確に規定している。
「生鮮食料品等の公正な取引と円滑な流通を確保し、国民生活の安定に資する」
価格形成と供給の安定を制度として担保する。
それが中央卸売市場の役割だ。
この構造は今も変わらない。
直売所は制度流通の外側で拡大した
直売所は、中央卸売市場の制度枠外で発展してきた。
地域密着型
小ロット販売
生産者参加型
対面型販売
分散型の流通である。
制度的基幹流通とは異なる論理で拡大してきた。
そしてその販売額が1兆円規模に達した。
これは一時的現象ではない。
構造的定着である。
なぜ直売所は拡大しているのか
消費の質的変化
消費者は価格だけでなく、
誰が作ったか
どの土地で作られたか
どのような思想で作られたか
を重視する。
効率では説明できない価値が選択されている。
農家の販売参加
農家が出荷主体から販売主体へと役割を広げた。
自ら価格を決め、
自ら説明し、
自ら関係を築く。
直売所はその接点である。
地域経済の再評価
地産地消は政策的にも推進されている。
直売所は地域循環の拠点として位置づけられている。
農林水産省は直売所の取り組みを紹介し、地域農業と消費者を結びつける拠点として評価している。
直売所は小売という側面だけではなく、地域の拠点でもある。
世界的にも広がる関係志向
生産者と食卓を直接つなぐ思想は国際的にも広がっている。
ファームトゥテーブルの動きが象徴的だ。
効率中心の流通に対し、関係中心の食を再評価する流れである。
直売所は、そのローカルな実践形態といえる。
名古屋・オアシス21有機市という現場
名古屋・栄のオアシス21で開かれる有機農産物直売市「オーガニックファーマーズ朝市村」。2004年からこつこつ継続して朝市村が開かれてきた。
私は農業新聞記者時代からこの現場を取材してきた。
運営に関わる吉野隆子さんとは、その当時からの付き合いが続いている。
2週間ほど前に私の夫もこちらに伺っている。
ここは単なる販売空間ではない。
吉野隆子さんが守ってきたもの
吉野さんが重視してきたのは販売量ではない。
出会い、消費者と農家との理解、継続的な販売・購買の関係性--ー。
作る人と食べる人が直接向き合うこと。
農産物の背景を伝えること。
関係が続くこと。
以前吉野さんが「ここは、売る場でもあるけれど、消費者との関係性をつくる場でもある」と話していたことが印象的だった。
朝市の出荷に向けて、岐阜の山奥から車を飛ばして農産物を持ち込む農家さん。
朝市のファンとして、栄に朝早くから訪れるお客さん。
いつもの農家さんの顔が見られないと「●●さん、どうしたの?」と心配する声もある。
農業と消費者、都市と農村が出合い、関係性を紡ぎ直す場所でもある
変わらない光景
毎週通う来場者。
顔を覚え、畑の様子を聞き、次の収穫を待つ。
効率では説明できない関係が続く。
-
土を感じたい
-
季節を感じたい
-
作る人を感じたい
-
生きる手触りを感じたい
人は野菜だけを買っているのではない。
関係を買っている。
食・農・生活--分業の中でばらばらになったピースを、
もう一度組み合わせようとしている。
直売所の本質
中央卸売市場は安定供給というインフラ、大量流通・規格といった効率部分を担う。
直売所は関係を担う。
役割は異なる。
制度的基幹流通が維持される一方で、接点型流通が拡大している。
流通は多層化している。
結論
農産物直売所は1兆円規模の流通である。
しかし本質は流通だけではない。
食と農を再接続する拠点である装置であると考える。
中央卸売市場という制度的基幹流通が支える構造の中で、
直売所は異なる価値を提供している。
食・農・生活をもう一度つなぎ直したいという感覚が、直売所に人を向かわせているのだと思う。